「自然」に値段がつく日——$49億カーボンクレジット市場と、入会林野が証明した「共有地の管理」

はじめに——「自然」に値段がつく日

もし海外のESG投資家に「日本には、自然資源を共同で管理する制度はあったのか?」と聞かれたら、あなたは何と答えるだろうか。 2026年、自主的カーボンクレジット市場は$22.9億〜$30.2億に達し、2030年には$49.2億に成長する見通しだ。さらに生物多様性クレジット市場が$1.2億規模で立ち上がり、2032年には$375.5億に達するとの予測もある。カーボン・ダイレクト(Carbon Direct)の2026年レポートによれば、カーボンクレジットの退出(リタイアメント)は7%減少した一方、コミットメント(購入約束)は227%急増した。自然資本の「金融化」——森林・湿地・海洋の生態系サービスに経済的価値を付与し、市場メカニズムで保全を促進する動き——が加速している。 この潮流の核心は、「自然を守ることが経済的に合理的な選択になる」仕組みの設計にある。しかし、森林を「共有資源」として数百年にわたって持続的に管理してきた制度が、日本にある。入会林野(いりあいりんや)——地域住民が共同で森林を利用・管理する慣行は、エリノア・オストロム(Elinor Ostrom)がノーベル経済学賞を受賞した「コモンズの管理」の実例として、国際的に研究されてきた。本稿では、カーボンクレジット・自然資本市場の現在地を確認したうえで、入会林野と里山の共同管理を補助線に、「自然に値段をつける」時代の本質を考える。

この記事の続きは会員限定です。