藩札という実験——「信用だけで価値を持つ通貨」の三百年前

ステーブルコイン、企業発行のポイント、各社のウォレット残高——いま私たちの周りには、国家が発行したわけではない「通貨のようなもの」が無数に増えている。その価値は、発行体への信用だけで支えられている。実は江戸時代の日本は、同じ構造の実験を二百年以上にわたって続けていた。各藩が独自に発行した紙幣、「藩札(はんさつ)」である。

金属ではなく「紙」が価値を持つということ

藩札とは、江戸時代に諸藩が領内限定で発行した紙幣である。現存する最古の藩札は、寛文元年(1661年)に発行された越前福井藩札とされる。それまでの貨幣は金・銀・銅という金属そのものに価値があった。素材を溶かせば地金として通用する。ところが藩札は、ただの紙である。紙そのものに価値はない。にもかかわらず通貨として機能したのは、「この札を持ってくれば正貨(金銀)と引き換える」という藩の約束——兌換(だかん)の保証があったからだ。

価値の源泉が、素材から「発行体の信用」へと移った。これは貨幣史における静かな、しかし決定的な転換である。藩札を受け取る商人や農民は、紙そのものではなく、その背後にある藩の支払い能力と誠実さを信じていた。


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