算盤と算用——日本人が鎖えた「計算する力」

経理をAIが自動で処理する時代。だが、計算という営みは、かつて人間の頭と手が担うものだった。江戸の商人が片時も離さなかった道具が「算盤(そろばん)」であり、その背後には「算用(さんよう)」という計算文化があった。計算が経営の中核だった時代の知恵を訪ねる。

商人の必須技能としての算用

江戸時代、商人にとって計算する力——算用——は、読み書きと並ぶ必須の技能だった。仕入れと売上の計算、利益の算定、貸し借りの管理、両替の換算。商いのあらゆる場面に計算がついて回る。算用ができなければ、商人は務まらなかった。

その計算を支えた道具が算盤である。珠を弾くことで、加減乗除を高速かつ正確にこなす。熟練した商人や番頭は、驚くべき速さと正確さで算盤を操り、複雑な計算を瞬時に処理した。算盤は、いわば商家の「計算機」であり、それを使いこなす算用の技能は、商人の能力そのものを示すものだった。


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