琵琶法師と平家物語——文字を持たぬ人へ「声」で届けた知の流通
音声が、ふたたび情報の主役に返り咲こうとしている。AIが文書を語りに変え、人々は画面を見ずに耳で知を受け取る。だが、声によって物語と歴史を全国へ伝えるという営みは、決して新しいものではない。識字に依らず、琵琶の音とともに『平家物語』を語り歩いた琵琶法師たちは、中世日本における巨大な「声の情報網」そのものであった。
盲目の語り手が背負った物語
琵琶法師とは、琵琶を弾きながら物語などを語った、多くは盲目の芸能者である。その源流は古代に遡るが、彼らの名を不朽にしたのが、平家一門の興亡を描いた軍記物語『平家物語』を琵琶に合わせて語る「平曲(へいきょく)」であった。「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」——この有名な冒頭は、本来、黙読されるためではなく、節をつけて語られ、聴かれるためのものだったのである。
『平家物語』の成立については諸説あるが、『徒然草』には、信濃前司行長が物語を作り、生仏(しょうぶつ)という盲目の僧に教えて語らせた、という趣旨の伝承が記されている。文字としての物語と、それを声で届ける語り手とが、早い段階から分かちがたく結びついていたことがうかがえる。語り手たちはやがて当道座(とうどうざ)という座を組織し、師から弟子へと語りの旋律と詞章を口伝で受け継いでいった。
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