Bluesky——「自分のSNSは自分で選ぶ」という静かな革命が、X時代の終わりに揺らぎ始めた日本に届くまで

カテゴリー:世界と日本 | シリーズ:先端ビジネスとそのルーツ | 著者:ARBO編集部


はじめに——投稿の主導権は、誰のものか

ある日の朝、SNSのタイムラインを開いたとき、なぜか自分の興味とはまったく関係のない投稿が次々と流れてくる。あるいは、急に過激な政治的発言や、見知らぬ広告が並ぶようになる。投稿の順序も、表示される内容も、自分が選んだわけではない。誰かが、どこかで、見えない仕組みによって決めている——。

そうした「SNSは自分のものではない」という違和感を、近年、世界中の利用者が共有するようになった。SNSのアルゴリズム、規約、運営方針は、その時々の経営判断によって一夜にして変わりうる。利用者は、その変化に振り回されるしかなかった。

この構造そのものを、根本から問い直そうとするサービスが登場している。米国シアトルに拠点を置くBluesky Social, PBC(以下、「Bluesky Social」)が運営する、分散型のマイクロブログサービス「Bluesky」である。2024年2月の一般公開からわずか2年の間に、世界の登録利用者数は4400万人を超えた。日本国内でも、X(旧Twitter)からの「移住先」あるいは「併用先」として静かに広がりつつある。

なぜ「中央集権を持たないSNS」という、一見すると技術者向けの理念から出発したサービスが、これほど短期間で世界の関心を集めたのか。そして、Xの月間アクティブ利用者数が約6800万人とSNS最大規模を誇るこの日本において、Blueskyはどのような位置を占めていくのか。本稿ではまずBluesky Socialという企業の輪郭を丁寧に辿り、その上で、日本社会への定着について2つの異なる見立てを提示してみたい。


第一部:グローバル視点——「分散」という思想が、巨大プラットフォームへの静かな反抗となる

1、Twitterの内側から生まれた、分散型SNSという発想

Blueskyの起源は、2019年12月11日に当時Twitter, Inc.の最高経営責任者であったJack Dorsey(ジャック・ドーシー)が、自身のTwitterアカウントで投稿した1本のツイートに遡る。「Twitterは、5名以下の小規模で独立したオープンソースのアーキテクト、エンジニア、デザイナーのチームに資金提供し、SNSのためのオープンで分散化された標準規格を開発する。最終的にはTwitter自体が、その標準規格のクライアントになることを目指す」という宣言だった。

このDorseyの発想を後押ししたのが、米国のテクノロジー法政策の論客として知られるMike Masnick(マイク・マズニック)が同年に発表した論文「Protocols, Not Platforms(プラットフォームではなく、プロトコルを)」である。マズニックはその論文のなかで、SNSが直面していたコンテンツ・モデレーション(投稿の審査・削除)の危機について、「特定の企業が中央集権的に判断を下す現在の構造そのものが問題である。代わりに、利用者自身が自分の許容範囲に応じて投稿をフィルタリングできるような『プロトコル(共通規格)』を構築すべきだ」と主張した。マズニックは後にBluesky Socialの取締役会メンバーとして参画することになる。

Twitterは2020年から2021年初頭にかけて、分散型技術の専門家約50名を集めた研究会を組成した。この研究会では明確な合意形成には至らなかったが、最終的に2021年8月、Bluesky Socialの実務責任者として1人のソフトウェアエンジニアを採用する判断に至る。それが、後にBluesky Social, PBCの初代最高経営責任者となるJay Graber(ジェイ・グレイバー)である。

2、初代最高経営責任者 Jay Graberの経歴と、独立法人化への決断

Jay Graber(本名はLantian Graber、ランティアン・グレイバー)は、1991年に米国オクラホマ州タルサで生まれた。父はスイス人の数学教師、母は中国系の鍼灸師という、国際色豊かな家庭に育った人物である。コンピューター・サイエンスを専攻し、2015年から米国カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置くサプライチェーン管理ソフトウェア会社SkuChain, Inc.でソフトウェアエンジニアとしてキャリアを始めた。その後、米国ワシントン州でビットコイン・マイニング機材の組み立てに従事した期間を経て、暗号資産Zcashのジュニア開発者として、分散型技術と暗号技術の現場に身を置いてきた。中央集権を持たないシステムの設計思想を、若い頃から肌で知っていた人物である。

グレイバーがBluesky Socialの責任者に就任した直後、Twitter, Inc.は同プロジェクトに対して総額1300万米ドル(当時の為替で約14億円)の初期資金を提供した。これが、Bluesky Socialが本格的に動き出す礎となる。

そして2021年10月、グレイバーはBlueskyプロジェクトをTwitter, Inc.から法的に独立させ、「Bluesky Social, PBC」という独立法人として登記した。グレイバーは独立の理由を「Twitterには、既存のビジネスモデルに深く根ざした構造的な動機が存在しており、その内部にとどまったままでは、本来目指すべき分散型のSNSを実現することは困難である」と語っている。翌2022年2月、Bluesky SocialはPublic Benefit Corporation(公益事業会社)として法人形態を再構築した。これは「株主への利益最大化」よりも「公共の利益への貢献」を優先することが、定款に明記された法人形態である。同年3月、最初の3名の社員が採用された。

3、2022年——Elon MuskのTwitter買収という、追い風と逆風

2022年10月、米国の起業家Elon Musk(イーロン・マスク)が約440億米ドル(当時の為替で約6兆4000億円)でTwitter, Inc.を買収した。マスクの就任後、Twitterは「X」へのブランド変更、大規模な社員解雇、コンテンツ・モデレーション方針の大幅変更など、立て続けに大きな路線変更に踏み切った。これに伴い、Twitter, Inc.はBluesky Socialとの法的・財務的な関係をすべて断ち切った。

この出来事は、Bluesky Socialにとって諸刃の剣だった。一方では、Twitterからの追加資金が完全に途絶え、自力での資金調達と開発を強いられることになった。他方で、マスク体制下のXに失望した利用者のあいだで、「次のSNS」を求める空気が世界中に広がり、Blueskyへの関心は急速に高まった。Bluesky Socialは2022年10月、招待制サービスの利用希望者向けに、ウェイティングリスト(登録順番待ちリスト)の受付を開始した。

4、2023年から2024年初頭——招待制ベータから一般公開へ

Bluesky Socialは2023年2月17日、米国Apple Inc.のApp Storeを通じて、iOS向けの招待制ベータ版を正式に公開した。2023年4月には米国Alphabet Inc.傘下のGoogle Playを通じてAndroid版も公開された。当初、Blueskyのアプリのソースコードは2023年5月にMIT Licenseの下で公開され、サーバー側ソフトウェアの一部はMIT LicenseとApache Licenseのデュアルライセンスで提供された。これは「自社で囲い込まない」という分散型の哲学を、技術面から裏付ける措置だった。

招待制という形式が、興味深い結果をもたらした。利用者層の中心となったのは、芸術家、性的少数者、左派系の言論人、ファーリー(擬人化動物の愛好家)など、それまで主流のSNS上で疎外感を抱いてきた小さな共同体である。彼らが招待を介して仲間を集めたことで、Blueskyには独自の文化的な地層が形成された。Bluesky Socialの最高執行責任者Rose Wang(ローズ・ワン)は後に、「初期のヘビーユーザーが、私たちの文化を伝え、強化してくれた」と振り返っている。

2023年7月5日、Bluesky Socialは初の対外資金調達を発表した。米国の投資会社Neoが主導した、800万米ドル(当時の為替で約11億円)規模のシード資金調達である。同年9月には登録利用者数が100万人を突破し、11月に200万人を超えた。

そして2024年2月6日、Bluesky Socialは招待制を撤廃し、誰でも自由に登録できる一般公開に踏み切った。公開時の登録利用者数は約314万人。1か月後の3月には510万人にまで急増した。

5、2024年5月——創業者Jack Dorseyの離脱と、独立路線の鮮明化

2024年5月4日、創業者であるJack Dorseyが「自分はもうBluesky Socialの取締役会には在籍していない」とX(旧Twitter)に投稿した。Bluesky Socialは翌日、その事実を正式に認めた。Dorseyはその後のインタビューで、Bluesky Socialが進めていた独自のコンテンツ・モデレーション機能や、PBC(公益事業会社)という法人形態を批判し、「Bluesky Socialは、文字通り、Twitter/Xが犯したすべての過ちを繰り返している」と厳しい言葉を残した。

しかしBluesky Socialにとって、Dorseyの離脱はむしろ独立路線をより鮮明にする転機となった。同社は2024年10月、米国の暗号資産・ウェブ3関連投資会社Blockchain Capitalが主導する1500万米ドル(当時の為替で約23億円)規模のシリーズAの資金調達を完了した。この際、Bluesky Socialは「暗号通貨をBlueskyやAT Protocolに統合することはしない」と明言した。「SNS体験を過度に金銭化しない」という宣言である。これは、暗号資産系の投資家から資金を受けながらも、独自の哲学を守り抜くという強い意思表示だった。

6、2024年8月から11月——「Elon Musk Events」と呼ばれた爆発的成長

2024年8月、ブラジル連邦最高裁判所が、X(旧Twitter)の同国内での運営を一時停止する決定を下した。これに伴い、ブラジルのX利用者がBlueskyへ大量に流入し、わずか2週間で400万人もの新規登録者を獲得した。Blueskyはブラジルのアプリストアで首位に立ち、9月16日には世界全体の登録利用者数が1000万人に達した。

さらに2024年10月、XがTerms of Service(利用規約)を変更し、利用者の投稿内容をAI訓練データとして自動的に利用する方針を打ち出した。これに反発した利用者の流入で、Blueskyは2日間で120万人を獲得し、10月24日には1300万人に達した。

そして決定打となったのが、2024年11月5日の米国大統領選挙である。マスクがDonald Trump(ドナルド・トランプ)への最大の個人献金者となり、X上での選挙関連の発言が物議を醸した結果、米国・英国・カナダなどの利用者がBlueskyに大規模に移住した。11月13日には1500万人、11月19日には2000万人を突破。Bluesky Socialの社員たちは、この一連の急増を「Elon Musk Events(略してEME)」と呼んだ。

11月の急増期には、平時で1日あたり3000件だった違反通報が、ピーク時には24時間で4万2000件を超えるに至った。Bluesky Socialは急遽サーバーを増強し、信頼性チーム(Trust & Safetyチーム)を増員して、この嵐を乗り切った。

7、2025年から2026年——ピークアウトと、新たな経営体制

2025年に入ると、Blueskyの成長カーブはやや穏やかになる。1月末には登録利用者数が3000万人を突破し、4月には3500万人、8月には3850万人に達した。しかし、デイリーアクティブユーザー(1日に活動する利用者)の数は、2025年3月の約250万人をピークに、9月には約150万人へと約40%減少している。米国のPew Research Centerの調査によれば、2024年の米大統領選挙後の4か月間で、Blueskyにアカウントを持つ「ニュース系インフルエンサー」の割合は約2倍に増えたが、その後はやや沈静化しつつある。

2025年4月、Bluesky Socialは米国の投資会社Bain Capital Cryptoが主導するシリーズBラウンドで1億米ドル(当時の為替で約145億円)の資金調達を完了した。この事実は約1年後の2026年3月19日まで非公表だった。同時期に、Alumni VenturesやBlockchain Capitalなどの既存投資家も追加出資した。

そして2026年3月9日、Bluesky Socialは大きな経営体制の転換を発表する。約4年半にわたって最高経営責任者を務めてきたJay Graberが代表の座を退き、米国の投資会社True Venturesのパートナーで、かつてWordPress.comを運営するAutomattic, Inc.の最高経営責任者を務めたToni Schneider(トニー・シュナイダー)が暫定最高経営責任者として就任した。グレイバーは引き続き同社の最高イノベーション責任者として、AT Protocolの開発を主導することになっている。

2025年12月末の登録利用者数は4141万人。2026年5月時点では4400万人を超えており、Bluesky Socialの社員数は29名(2025年9月時点)と、利用者規模に対して少数精鋭の体制を維持している。


第二部:日本での浸透——X最大級市場における「もう1つの選択肢」

1、2024年初頭、VTuber「しぐれうい」を起点に始まった日本での広がり

Blueskyが日本で注目され始めたのは、2024年2月の一般公開直後である。きっかけの1つとなったのが、日本の絵師でバーチャルYouTuber(VTuber)としても知られる「しぐれうい」によるアカウント開設だった。彼女のフォロワーが追随する形でBlueskyに登録し、日本語圏で独自の小さな共同体が形成された。

Similarwebの調査によれば、Android端末上でのBluesky日本語版の月間平均利用者数は、2024年10月までの12か月間で約5倍に増えた。同時期にX(旧Twitter)の日本国内利用者数は微減傾向を示しており、両者の対比は明確だった。The Japan Timesは2024年11月、「Blueskyは日本で急成長している。ただし、その理由は米国の政治情勢とは別のところにある」と報じている。日本の利用者は、米大統領選挙の影響を受けたわけではなく、もっと根源的な「使い心地の自由さ」「広告の少なさ」「招待制時代から積み上がっていた独自文化」に惹かれて移住してきたのだ、という分析である。

2、Misskey、Mastodonと並ぶ「分散型SNSの選択肢」

日本のSNS市場は、世界的に見ても極めて特異である。日本国内のX(旧Twitter)月間アクティブ利用者数は約6800万人で、人口比では世界最高水準。X社のプロダクト責任者Patrick Bier(パトリック・ビアー)は2026年3月、「日本はXのデイリーアクティブ利用者数と利用時間が世界最多であり、人口の3分の2以上が月間利用者である」と語っている。

その一方で、日本には独自の分散型SNS文化がすでに存在していた。2014年に日本人エンジニアsyuilo氏が開発を始めた分散型SNS「Misskey」(現在は株式会社MisskeyHQが運営)、ドイツ発の分散型SNS「Mastodon」など、ActivityPubという規格に基づくSNSが、技術者やアニメ・ゲーム文化の愛好家を中心に根付いていた。BlueskyのAT Protocolはこれらとは別の規格だが、「中央集権を持たないSNS」という点では同じ流れに位置する。

2026年初頭の時点で、Blueskyの日本語アカウント数の正確な公表はないが、Bluesky全体の登録利用者4400万人のうち、日本語圏の利用者は推定で200万人前後と見られる。X日本市場の3%程度の規模ではあるが、日本国内のテキスト型SNSにおいて「Xの代替・補完」として無視できない存在になりつつある。

3、なぜ日本人がBlueskyに惹かれるのか

日本でのBlueskyの受容には、いくつかの興味深い特徴がある。

第1に、「広告がない」という点。Bluesky Socialは現在まで、広告掲載によるマネタイズを行っていない。これは日本の利用者、特にXでの広告増加に疲れた層にとって、強い魅力となっている。

第2に、「アルゴリズムを自分で選べる」という点。BlueskyはAT Protocolを通じて、利用者自身がタイムライン表示のアルゴリズムを選択できる仕組みを提供している。これは「自分のSNS体験は自分で設計したい」という、日本の利用者の細やかな嗜好と相性が良い。

第3に、「招待制時代から続く穏やかな文化」。Blueskyは初期にマイノリティ系・芸術系の利用者が中心となって独自の文化を築いたため、現在も比較的穏やかで知的な雰囲気が保たれている。これは「炎上」「誹謗中傷」に疲れた日本の利用者にとって、ある種の避難所として機能している。

第4に、「ハンドル名にドメインを使える」という独自機能。Blueskyでは、自分が所有するドメイン名(例:example.com)をそのままアカウント名として使うことができる。これは個人や企業が「自分の身元」を技術的に証明できる仕組みであり、「なりすまし」が問題となっているSNS環境において、特に企業利用者から評価されている。


第三部:日本での今後——2つのシナリオ

ここからは、Blueskyが今後の日本社会でどのような位置を占めていくかについて、性質の異なる2つの見立てを示してみたい。記事の最後で、ARBO編集部としての1つの解釈を提示する。

シナリオA:「Xの本格的な代替」として定着する

楽観的な見立てから始めよう。

このシナリオでは、Blueskyは日本において、Xに代わる主要なテキスト型SNSへと成長していく。根拠は4つある。

第1に、世界全体での登録利用者数が4400万人を突破し、もはや「実験的なサービス」のフェーズを脱したという事実である。2024年11月の米大統領選挙以降、急増した利用者の一部は確かに離脱したものの、コアな利用者層は定着しつつある。日本でも、初期の流入から1年を経た2025年以降、継続して利用する層が育っている。

第2に、Xの経営方針が今後さらに不安定化する可能性がある。マスク体制下のX社は、コンテンツ・モデレーション、広告ポリシー、利用規約などを頻繁に変更しており、日本企業の広告主や言論人のなかにも「Xにすべての発信を頼ることのリスク」を感じる層が増えつつある。Blueskyは「もう1つの拠点」として、その受け皿になりうる。

第3に、AT Protocolという技術的な独自性は、長期的に大きな差別化要因となる可能性がある。利用者がアルゴリズムを自由に選べる仕組みは、Xや既存のSNSにはない強みであり、特に技術リテラシーの高い日本の若い層から支持されている。日本国内では、独自のフィードやモデレーション・サービスを開発する開発者共同体も少しずつ広がっている。

第4に、Bluesky Socialの「広告に依存しない収益モデル」は、長期的には信頼性を高める可能性がある。同社は現在、有料の付加サービス(カスタムドメインの管理、アカウントの認証など)の展開を模索しており、これが軌道に乗れば、広告依存からの脱却が見えてくる。日本の利用者は「広告のないSNS」への評価が高く、この点で長期的な定着が見込める。

このシナリオが現実になるならば、Blueskyは2028年頃には日本国内で500万人から1000万人規模の利用者を抱え、Xに次ぐテキスト型SNSの地位を確立することになるだろう。

シナリオB:「ニッチな知識共同体」にとどまる

一方で、慎重な見立ても示しておく必要がある。

このシナリオでは、Blueskyは現在の利用者層を維持こそするものの、Xを大きく揺るがすほどの広がりは見せず、技術者・知識人・芸術家を中心とした「ニッチな知識共同体」にとどまる。理由は同じく4つ挙げられる。

第1に、日本のXは世界的に見ても異常なほど深く社会に根を下ろしている。X社の発表によれば、日本人口の3分の2以上が月間利用者であり、Xはもはや「SNS」ではなく「生活インフラ」に近い。芸能人、企業の公式発信、メディアの速報、災害情報など、Xに集積された情報量と利用者基盤は圧倒的であり、これを別のサービスが置き換えるのは容易ではない。

第2に、Bluesky自体のデイリーアクティブユーザーが2025年3月の約250万人をピークに、9月には約150万人と約40%減少している事実は無視できない。世界的にも「成長の踊り場」に入っている可能性が高く、日本でも同様の傾向が現れる可能性がある。Z世代を含む若年層は移り気の早さでも知られており、現在のBluesky人気が長期的に継続する保証はない。

第3に、経営体制の流動性である。2026年3月にはJay Graberが最高経営責任者を退任し、Toni Schneiderが暫定最高経営責任者として就任した。新たな常任の最高経営責任者の選任が完了するまで、経営方針が不安定化する可能性がある。また、同社の社員数はわずか29名であり、急速な成長や危機への対応力に限界がある。

第4に、収益モデルの未確立である。Bluesky Socialはこれまで合計1億2300万米ドル(約180億円)規模の資金を調達しているが、明確な収益事業は確立されていない。投資家からの圧力が強まれば、いずれ広告事業の導入や、有料機能の本格展開を迫られることになる。その際、現在の「無広告で穏やか」という文化が崩れる可能性がある。

このシナリオが現実になるならば、Blueskyは2028年頃には日本国内で50万人から100万人程度の利用者にとどまり、「分散型SNSの代表的な選択肢の1つ」として、ニッチな存在感を保つにとどまるだろう。


ARBOの見解——「Xの並走者」として独自の地位を築く

2つのシナリオを並べた上で、ARBO編集部としての現時点での見立てを示したい。

我々の見方は、両シナリオの中間に位置する。すなわち、Blueskyは日本において**「Xを置き換える存在」にはならないが、「Xの隣で並走しながら、独自の文化的・技術的な地位を築く存在」として定着する**、というものである。

その根拠は、日本社会が長らく培ってきた「複線型」のメディア利用文化にある。日本人はテレビを見ながら新聞を読み、ラジオを聴きながらSNSを見る、という多層的な情報摂取に慣れている。SNSにおいても、LINEで親しい人と会話し、Instagramで写真を見せ、Xで速報や雑談を追い、TikTokで動画を見る、という使い分けがすでに定着している。Blueskyはこの構造のなかで、「より静かで、より自由度の高い、もう1つのテキスト型SNS」という独自の役割を担うことになる。

特に注目したいのは、Blueskyが「公(おおやけ)」と「私(わたくし)」の中間に位置する、新しい場として機能しうる点である。Xが完全な「公」の発信地、LINEが完全な「私」の連絡網であるとすれば、Blueskyはその中間で、「自分の好きな仲間と、適度な距離感で言葉を交わす」という役割を担う。これは日本の伝統的な「縁側」「茶室」「内輪の集い」といった、中間的な交流の場の文化と、深いところで響き合う可能性がある。

注視すべき3つのポイント

向こう1年から2年、ARBO編集部が特に注目していく観点は次の3つである。

1つ目は、Toni Schneiderの経営戦略と、新たな最高経営責任者の選任である。シュナイダーはWordPress.comを運営するAutomattic, Inc.(以下、「Automattic」)で、オープンソースとビジネスの両立を実現した実績を持つ。Bluesky Socialの理念を維持しながら、収益モデルをどう構築するか。その手腕に注目したい。

2つ目は、日本市場専用の機能と、日本企業との連携の深さである。Bluesky Socialはまだ日本に拠点を置いていないが、利用者数の増加に伴い、日本語サポートや日本企業との連携が進むかどうか。日本のメディア企業や教育機関、地域共同体との取り組みが生まれれば、Blueskyが日本に深く根を下ろす可能性が高まる。

3つ目は、AT Protocolという技術的な独自性が、どこまで広がるかである。Bluesky Social以外の事業者が、AT Protocolを基盤とした独自のSNSやサービスを展開し始めれば、「Bluesky」という単一サービスの枠を超えた、より大きな分散型SNSの生態系が育つ可能性がある。日本の開発者共同体が、この生態系のなかでどのような役割を果たすかにも注目したい。


Blueskyという小さなサービスは、SNSの歴史において、おそらく決定的な革命者ではない。しかし、巨大プラットフォームへの依存に疲弊した現代社会のなかで、「自分のSNSは自分で選ぶ」という、当たり前のようでいて長らく忘れられていた選択肢を、静かに提示し続けている。その選択肢がもたらす効果は、利用者数という単一の指標では測れない、もっと深いところで、現代人のメディアとの向き合い方を変えつつあるのかもしれない。我々はこの先も、この「静かな革命」がどこへ向かうのかを、注意深く見守っていきたい。



本稿は2026年5月時点の公開情報に基づいて執筆されました。各種数値や経営状況は今後変動する可能性があります。