Spotify Wrappedと「家元制度」——アルゴリズムが選ぶ「あなたの今年」を、日本の伝統的な「継承」はどう見るか

はじめに——「あなたの一年」を、誰が決めるのか

毎年12月の初め、世界中のSNSが同じ色のグラフィックで埋め尽くされる時期がある。スウェーデンのSpotify Technology S.A.が提供する音楽配信サービス「Spotify」が、利用者一人ひとりの一年間の聴取データを集計し、個別のスライドショーとして配信する企画——「Spotify Wrapped」(直訳すれば“包まれた一年”)である。

2025年版のWrappedは、2025年12月3日に世界同時公開された。Spotifyの公式発表によれば、公開から24時間で2億人を超える利用者が自分のWrappedを開き、SNSへのシェアは累計5億件を突破した。

数字だけを見れば、Wrappedは現代のデジタル文化の象徴的な成功事例である。しかし、Spotifyにとって2025年は、単なる「最高記録の年」では終わらなかった。前年2024年のWrappedで生成AIを大々的に活用したことが利用者の強い反発を招き、2025年版では一転して「人間が手で作る」設計に回帰した——その経緯こそが、今回の論点の出発点である。

ARBOが今回掘り下げたい問いは、こうである。

「アルゴリズムが選ぶ“あなたの今年”という体験は、日本の伝統的な“継承”の作法、すなわち家元制度と、どこで重なり、どこで決定的に異なるのか」

本稿では、Wrappedという現象の背景を辿った上で、日本の能、茶道、華道などを支えてきた家元制度を補助線にしながら、デジタル時代の「個人の物語化」と「集団の継承」という、2つの異なる価値観を照らし合わせてみたい。


この記事の続きは会員限定です。