エンタープライズ検索「Glean」と「行司」の知恵——情報の海で誰が判定するか
本稿のリードでは、世界の働き方を変えつつあるエンタープライズAI検索の最前線を、土俵の上で勝負を見届ける「行司」の所作に重ねて読み解く。情報を統合する技術ではなく、情報を裁定し、提示し、必要なら宙吊りにする技術として、AI検索の次の一歩を考える。
会議資料を探す。Slack の過去ログを掘る。Drive の似たファイル名を比べる。Notion の親ページを辿る。誰もが日々十数分から数時間、組織の中で「答えがどこかにあるはず」を探している。総務省『令和6年版情報通信白書』が示すとおり、ホワイトカラーの労働時間のかなりの部分は、本当の作業ではなく情報の探索と再構成に費やされている。
その「探索」を一気に消し去ろうとしているのが、エンタープライズ AI 検索だ。Glean は2025年6月、Wellington Management 主導の Series F で1億5,000万ドルを調達し、評価額は 72億ドルに達した。Notion は同年5月13日、リリースノート 2.51 で「Enterprise Search」を正式機能化し、Notion 内のページに加えて Slack、Microsoft Teams、Google Drive などをユーザーの権限に沿って横断検索する仕組みを公開した。両者に共通するのは、検索結果を「リンクの一覧」で返すのではなく、確信度つきの一つの答えを提示しようとしている点である。
しかし「答えを一つに絞る」ことは、組織にとって本当に良いことなのだろうか。誰の発言を、いつの議事録を、どの版のドキュメントを「正解」として採るのか——その判断を AI に委ねることは、組織内の権威の所在を組み換える行為でもある。本稿では、相撲の土俵で勝負を裁く「行司」の知恵を補助線に、AI 検索が次に手にしなければならない作法を考える。
第1部 「答えを一つに絞る」競争——Glean と Notion AI の現在地
Glean——社内の「Google」を狙う独立系
Glean は2019年、元 Google で検索インフラを率いた Arvind Jain(アーヴィンド・ジェイン)らが設立した。狙いは明快で、Google が公開Webで成し遂げたことを、企業の社内データで再現することだ。Slack、Salesforce、Confluence、Jira、GitHub、Box、Drive、Outlook——主要なSaaSのほぼすべてにコネクタを持ち、ユーザーの権限スコープを尊重したまま、自然言語で問いに答える。
2025年から2026年にかけて、Glean は「Glean Assistant」から「Glean Agents」へと舵を切った。Assistant が単発の質問応答であるのに対し、Agents は複数ステップの業務手続き——たとえば「四半期レポートのドラフトを作って関係者にレビュー依頼を送る」——までを任せる枠組みだ。Reddit、Sony、Workday、Confluent といった顧客リストを、Glean は同社サイトで公開している。
Notion AI——統合ワークスペースの強みを武器に
一方の Notion は、ドキュメント・データベース・Wiki・タスク管理を一つの環境に収めた統合ワークスペースを出発点に持つ。Notion 公式 Help Center が説明するとおり、2.51 で提供開始した Enterprise Search は、Notion 内のコンテンツに加えて、外部ツールのコンテンツを「AI Connectors」経由でインデックス化し、ユーザーの権限スコープに沿って一つの答えを返す。さらに「Custom Agents」によって、社内手順を自動実行するエージェントを作成できる。
両社のポジションは異なるが、向かう先は驚くほど似ている。情報を集める競争から、情報を裁定する競争へ——AI 検索市場全体が、その一線を越えつつある。
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