Neuralink、脳の窓を開く——禅の坐相が示す「鎮める身体」
はじめに——「思考が直接インターフェースになる」時代に、身体はどこへ行くのか
2024年、米国のNeuralink Corp.(ニューラリンク、米国カリフォルニア州フリーモント)は、最初の脳インプラント手術を成功させた。ALS(筋萎縮性側索硬化症)で身体の自由を失った患者が、頭部に埋め込まれた小さなチップを介して、思考のみでカーソルを動かし、文字を入力した。映像は世界中を巡り、「思考が直接インターフェースになる時代」の到来として大きく報じられた。
それから約2年。2026年5月時点で、ニューラリンクは累計3例の手術を完了し、患者の意思伝達速度は1分あたり最大40語に達している。同社は「VOICE(Voice Output Interface for Communication and Empowerment)」と呼ばれる新たな臨床試験を始動させ、1分あたり140語——健常者の会話速度に近い水準——を視野に入れた。視覚を直接脳から再構築する装置「Blindsight」は2025年9月、米FDA(食品医薬品局)から画期的デバイス指定を受けた。同社CEOのイーロン・マスク(Elon Musk)は、向こう数年で数百人、10年以内に数百万人がこの装置を装着すると公言する。
並行して、競合の動きも加速している。米Synchron Inc.(シンクロン、ニューヨーク州)は2025年11月、シリーズDで2億米ドルを調達した。同社は頸静脈からカテーテルを通して脳の運動野にデバイスを留置する血管内アプローチを採用し、開頭手術を回避する。米Paradromics Inc.(パラドロミクス、テキサス州オースティン)は2025年11月、FDAから「Connect-One Study」の承認を取得し、毎秒200ビット超という業界最高水準の情報転送速度を実現する微小電極アレイで、2026年初頭から臨床試験を開始した。
脳と機械を直接つなぐ技術——Brain-Computer Interface(以下BCI)——は、もはやSFの題材ではなく、医療現場の選択肢になりつつある。だが、この技術が前提とする世界観に、ARBO編集部は一つの問いを重ねたい。
「思考が主体であり、身体はその容れ物にすぎない」という前提は、本当に普遍的なものか。日本がおよそ800年にわたって洗練してきた、まったく別の身体観——「身体を整えてから心を整える」という坐禅の系譜——は、BCI時代に何を問い直すのか。
本稿では、ニューラリンクを中心とするBCIの2026年5月時点の現在地を確認したうえで、鎌倉時代の禅僧・道元が確立した坐禅の作法、なかでも調身・調息・調心という三段階の身体技法を補助線に、両者がどこで響き合い、どこで決定的に違うのかを編集部の見立てを交えて検討する。
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