伊藤忠商事——近江商人の「三方よし」から純利益9,000億円の商社へ

はじめに——純利益9,000億円、非資源で勝つ商社

2026年3月期、伊藤忠商事の連結純利益は9,003億円(前期比2.3%増)と、3期連続で過去最高益を更新した。2027年3月期の予想は9,500億円とさらなる増益を見込む。時価総額は一時15兆円を超え、日本企業の中でもトップ10に入る巨大企業となった。

総合商社の中で、伊藤忠の特徴は明確だ。三菱商事や三井物産が資源・エネルギー分野に強みを持つのに対し、伊藤忠は「非資源分野」——繊維、食料、住生活、情報・金融——で圧倒的な収益力を誇る。資源価格の変動に左右されにくい安定した収益構造が、バフェットをはじめとする海外投資家からの評価を高めている。

伊藤忠の従業員数は単体で約4,200人。この少人数で純利益9,000億円を稼ぐ——一人当たり純利益は約2億円に達する。これは日本企業の中で群を抜く資本効率であり、ROE(自己資本利益率)も2026年3月期で14.6%と、会社が目標に掲げる15%前後の水準にある。

しかし、この「非資源で勝つ」戦略の原点は、168年前に近江の少年が担いだ麻布の行商にある。

初代伊藤忠兵衛——近江商人の系譜

1858年——麻布の行商

初代伊藤忠兵衛(いとう・ちゅうべえ、1842–1903)は、近江国犬上郡豊郷村(現・滋賀県犬上郡豊郷町)の商家に生まれた。1858年(安政5年)、15歳の忠兵衛は麻布(リネン)を担いで行商の旅に出る。これが伊藤忠商事の創業である。

当時の日本は幕末の動乱期。黒船来航から5年、安政の大獄の年である。政治が揺れる中でも、近江の商人たちは淡々と商いを続けていた。忠兵衛が担いだ麻布は、近江の特産品であり、九州・四国方面で高く売れた。

近江商人とは、近江国(現・滋賀県)を本拠地としながら、全国各地に出向いて商売を行った商人集団の総称だ。彼らは「持ち下り商い」と呼ばれる行商スタイルで、近江の特産品(麻布、蚊帳、畳表など)を各地に売り歩き、帰路には各地の特産品を仕入れて持ち帰った。この「往復で利益を出す」効率的な商法が、近江商人の富の源泉だった。

「三方よし」の哲学

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