サントリーホールディングス——鳥井信治郎の「やってみなはれ」精神と非上場の経営

はじめに——売上3兆円、非上場の巨人

2024年12月期、サントリーホールディングスの連結売上高は3兆797億円(酒税控除後)に達した。ウイスキー、ビール、清涼飲料、健康食品——日本人の日常に深く根ざした製品群を持つ総合飲料企業である。

しかしサントリーの最大の特徴は、この規模にもかかわらず非上場を貫いていることだ。創業家(鳥井家・佐治家)が議決権の大半を保有し、株式市場の短期的な圧力から自由な経営を続けている。子会社のサントリー食品インターナショナルは上場しているが、持株会社であるサントリーホールディングスは非上場のままだ。

その理由を、サントリーは明確に語る。「酒の醸造には時間がかかる。短期的な利益を要求される株式市場とは相容れない」——ウイスキーの熟成に10年、20年、時に50年を要する事業において、四半期決算の圧力は本質的に不適合だという思想である。

売上高3兆円を超える非上場企業は、日本ではサントリーのほかに存在しない。世界的に見ても、マース(Mars)、コーク(Koch Industries)、カーギル(Cargill)など限られた巨大非上場企業の仲間入りを果たしている。

鳥井信治郎——「やってみなはれ」の創業者

1899年——20歳の創業

鳥井信治郎(とりい・しんじろう、1879–1962)は、大阪市東区(現・中央区)の薬種問屋の次男として生まれた。13歳で薬種問屋「小西儀助商店」(現・コニシ株式会社)に丁稚奉公に入り、洋酒の調合技術を学ぶ。当時の薬種問屋は、薬だけでなくワインやウイスキーも「薬用酒」として扱っていた。

1899年(明治32年)、わずか20歳で「鳥井商店」を創業し、葡萄酒の製造販売を開始する。当時の日本では、ワインは「薬用」として飲まれる程度で、洋酒文化は皆無に等しかった。日本人の酒と言えば日本酒と焼酎であり、西洋の酒を日本人に飲ませるという発想自体が常識外れだった。

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